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少女はそこに、立ち尽くしていた。
「_____。」
来訪に期待を抱き、長い間。
閑とした世界で一寸も動かず、誰かを待ち続ける。
「___!」
静寂を、魔力の波動が優しく打ち消す。
ブーツを地面につける音が聞こえ、ほんのりとヤニの香りがする。
少女は長い黒髪を揺らし、振り向く。
__振り返れば、そこに居た。
「……遅くなってすまない…由香。」
罪悪感で心を満たし、マッドネスは謝罪を口にした。
彼女はそれに首を振って否定し、飛び付くように抱き締めた。
「___。」
強く抱き締めると、優しく彼は頭を撫でながら抱きしめ返してくれる。
彼に体温は無い筈なのに、暖かく感じるのは、一体何故だろうか。
「……ずっと、待っててくれたのか?」
時期がたまたまあっただけであって欲しい、と彼は切に願う。
彼女は__由香は、待とうと思えば永遠に等しいときでも待つ性質(たち)だと理解している。
「そこまで待っていないから…大丈夫よ…。」
「_具体的に何日だ?」
ずっと待っていた、という言葉を誤魔化すように言葉を選ぶ由香に、彼はそれを許さなかった。
抱擁を崩し、目を逸らして少女は答えようとする。
「少し……ほんの少し前に、来たばかり、だから…だ、大丈夫……!」
落差の大きい声を震わせ、目を逸らす彼女。誰が見ても、事実ではないとわかってしまうだろう。
「……本当は?」
恐る恐る、と言わんばかりに少女は彼へ顔を向ける。
眼前、赤い宝石のような瞳がこちらを捉えている。
「本当に、少し前だもの……!」
「___________。」
「……ぅ…………。」
「_____。」
「………み、三日くらい、前…?」
それが妥協できる程の長さだとおもっているのだろうか。
だが、それも虚言であると逸らされた黒の瞳が証明していた。
「……由香。」
「………………ニ週間、前…。」
ようやっと答えが出たが、その待った時間の長さに彼は絶句する。
「……ちゃんと寝たか?飯は?」
「…うっ………。」
どうやらそれもやっていなかったらしい。
彼女の体がどうなっているのかは不明だが、今において、それはどうだっていいことだ。
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