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小説家として暮らす羽柴の下に一通の結婚式の招待状が届く。淡い片思いを抱いた、大学の先輩からだった。
招待状をコンロで燃やしながら、締切開けの疲労した頭で彼は考える。いまだに親にカミングアウトもできず、孫や結婚を迫る言葉をのらくらとかわし生きてきた。自分の性的指向に違和感はもっていない。だが、女として生まれていたらもう少し生きやすかっただろうかと自嘲する。
鬱屈する気持ちを抱えて携帯を持つ。セフレとして関係を持つ紀希《かずき》に連絡を取り、他人を使って自嘲を隠す自分は呪い死ねと内心呟いた。
紀希はそんな羽柴の行為を悟り、そして嗜める。結婚式に出て落ち込んだ羽柴を慰める美味しい役ができると他人事のように言われ、一瞬羽柴は苛立つ。だが、紀希に対してセフレ留まりの関係を強要しているのは自分だと思い出す。恋人ではない立場を守る紀希に取ってそれは、他人事以外何物でもないのだった。
携帯に先輩から連絡が来る。淡い期待と欲望を胸に電話を取り、参加して欲しいという先輩からの蜜のような言葉。羽柴は結果として結婚式に参列すると伝えてしまう。結婚式場で声をかけられるまで、わざわざ電話で参加を促されるのだから期待せずにはいられなかった。だが白いタキシード姿に身を包む先輩の姿と「幸せか?」という羽柴の問いに肯定の返事を返されると、絶望に包まれ、羽柴は気づけば紀希の部屋に。
大人げなく泣く羽柴を、紀希は何も聞かずに抱きしめる。失恋に傷つく羽柴に向かって、紀希は届かぬ愛を歌った。
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